M. Butterfly 1993 101分
エム・バタフライ 1994/4/23(ワーナー・ブラザース)
フランス版だけ独自路線。他国は、米国版かドイツ版どちらかのイメージを流用。日本は米国版、イタリアはドイツ版がベース。CDジャケも米国版がベース。
:Clive Owen, Jin Ha
: Mark Stone, Kangmin Justin Kim
: RS Francisco,Olivier Borten
: 内野聖陽, 岡本圭人
各国のオリジナル舞台版。オーディオ・ブックにもなったジョン・リスゴーとBDウォン(「OZ/オズ」ムカダ神父)のコンビが、モデルになった本人たちと似ている。アンソニー・ホプキンスもルネ・ガリマールを1989年の舞台で演じている。
舞台版はプッチーニの「名作」オペラ「蝶々夫人」ではなく、現実に起こったスキャンダラスな事件をベースにしたフィクション。19世紀の東洋観であったオペラの名作を、20世紀の視点から批判的に脱構築。サイードによる「オリエンタリズムが実体のないファンタジーであり、西洋/中心による東洋/周辺の控造のための言説」(1978)というラジカルな批判は、今も常に意識すべき課題だろう。
クローネンバーグ版「Mバタフライ」は、「監獄」の中でのクライマックス後、「(離陸せんとする)飛行機から無人のタラップが静かに、静かに離れていく」シーンでドラマを終える。表層的には、裁判を終えたソンが中国に送還される飛行機という描写だが、そこにソンの姿はない。タラップごしにドアの閉じられた飛行機の機体がみえるだけ。カメラはタラップに乗った視点で、ゆっくりと飛行機から遠ざかる。結局ルネは外交官でありながら、自分の世界から外の世界へ旅する(他者と交流する)ことはなかったのだろうか。世界を旅していたつもりで、自分勝手な内的世界観を世界に投影していただけだったのか。無慈悲でホラーなエンディングなのだろうか。