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容疑者Xの献身

[ book ]


東野圭吾
2005/8/30 第1刷
2005/10/15 第4刷
文藝春秋 ¥1,600+税(借りたので¥0)

物語冒頭は面白かったのに、
終わってみたら…
なんだこりゃ、マンガじゃん。

<以下ネタバレ>






なんといってもがっくりきたのが、トリックすべてを「天才物理学者」が会話で一気に説明しつくしてしまうところだ。直木賞って、B級ミステリの典型的なパターン使っても許されるものなのか?かといって、そんな堂々たるマイナス要素を無視できるほど、登場人物の描写に深みがあって文学的に読み応えがあるかというと、そんなこたぁない。Amazonの感想文を読んでも、肯定的なのは単純に石神に感情移入していることがもう大前提なものか、著者が読者に期待したであろうとおりにトリックを誉めてるだけというファン向けの感想文ばかり。

童貞魂炸裂のオチこぼれた数学者・石神が、自殺寸前に隣に引越ししてきた元ホステス母(娘つき)に一目ぼれする設定はとりあえず納得しよう。つか、まあ納得できなくはないように用意された描写がちゃんとある。が、石神の立場からは納得できても、第三者である読者(=わたし)を納得させるには、元ホステスの母子描写があまりにもヌル過ぎる。元ホステスの母子はストーカーな元夫を殺すという罪を背負うが、その初期設定以外は純情キャラの範囲から一歩もはみ出さない。ストーリーが生きるためには石神の想像を超える「闇」を持たせるかなにかしないと、ラストの自首する・しないのサスペンスが成立しないではないか。

というか、石神がほんとうに天才ならば、元ホステスが自首できないような仕掛けを組まないでどうするという疑問がわいて当然だ。母娘の自首をよみきれなかったのは、数学は出来ても人の心がわからない石神の限界だった…なんて理屈は、石神本人以外には説得力皆無の理屈だ。

いくらアリバイ構築の一発アイデアが良くても、あの展開じゃせっかくのアイデアがストーリー上の単なるミスリードのネタでしかないわけで犯人である石神の間抜けさを強調してるだけなのでは?さらにいえば湯川なんてキャラ不用じゃん!

ヘタな謎解き構成(ミステリの体裁)なんぞ最初から捨て去って、時系列順に石神の行動をキッチリ描写すれば、ひょっとしてトンプソンばりの傑作になった可能性も考えられなくはないような気がしないでもない…。オチがあれでは、石神のキャラにたいしてもあんまりな仕打ちじゃなかろうか。天才(という設定のキャラ)が大ぽかをかますことを、凡人があざ笑うファンタジーなんだろうか?くだらねえ。ブラック・コメディが成立するには、仕掛けが足りなさ過ぎる。

世評の高さと物語前半のサスペンスに盛り上がったものの、あまりにも弱すぎる「小説」としての構造とキャラの弱さに脱力。

やっぱりベストセラーにろくなもんねえや。
ぷんすか

2007/11/24 追記:校正

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2006年09月02日 11:14に投稿されたエントリーのページです。

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