船戸与一 2004/5/10第1刷 文春文庫 ¥876
夏の黄昏 初老男・元猟師
夏の渦 中年男・おかま
夏の流れ 中年男・町金回収屋
夏の残光 若者男・右翼の鉄砲玉
夏の雷鳴 少年男・元将士
夏の夜雨 中年男・ホームレス
夏の曙 若者男・脇板
夏の星屑 中年女・元警官の探偵
どの話も、歌舞伎町を舞台に
ドツボで卑近な日常が描写されるが
微妙にステレオタイプを外す
キャラクター描写と展開が、見事だ。
しかも、必ず事件やキャラの背景に
「世界史」が透けて見えるところもさすが。
だからこそ、
ドラマのほとんどが、
救いようの無い無惨な結末
に至るのは、ほとんど必然でもある。
自らの行動に無自覚なキャラクターが直面する地獄絵は、
世界史に対する無知を断罪するかのように情容赦ない。
唯一「おかま」だけが、地獄を免れ、
明るいコメディとして機能している結果は
本全体のバランスを考えると
意外に深い意味合いがくみ取れるのではないか。
自ら社会のアウトサイダーであることを、
積極的に自覚する(せざるを得ない)キャラとして、
最もポジティブに描かれるのが、
インテリ・ヤクザや刑事くずれやホームレスではなく、
「おかま」というキャラ設定なのだ。
おもしろい。