監督:細田守
地上波
★★★
なるほど、おもしろかった。
公開当時、原田知世版には感動した、それなりに。が、その後大林監督作を何本か見たりインタビューを読んだりしていたある日のこと、突然気づいてしまった。大林監督作品とは肌が合わないことに。その日以降、大林監督作は全スルーだ。で、多くの人に絶賛される「時を…」もあれからうん十年見直していない。
そんなこともあり、アニメ版が限定公開から拡大ロードショーになり、連日好評だと話題になっていた最中も、劇場へ足を運ぶには至らなかった。けっこう興味深々だったのだが。細田監督のインタビューほかウェブ上でいろいろ情報を追っかけた。みなが当然のごとく褒めそやす大林版をブチ壊しているものと期待していたのだ。とはいえ、批評は気にしてもわざわざ見に行くほどではなかった程度のことだった。うはは。
で、CMでブツ切りにされながらも、アニメ版「時かけ」を見た。感動。
想像していたよりもずっとドラマチックだった。くり返される坂道の描写が怖ろしい。大林版をちゃんとリスペクトしながらブチ壊しているという好印象だ。より残酷なのもアニメならではの味。実写版よりも上出来だ。
主人公の恋愛中心史観で見ればハッピーエンド(=大林ポエム路線※)だが、一歩下がってみればそこかしこに大林版よりも露骨に死のイメージが描かれ(=事故、過去の戦時に描かれた絵画)ている。無邪気な能天気さと地獄行きの道とを、密接にからませながら描いている。気持ち悪い懐古趣味を廃して、きっちり現代の話にしているのが気持ちいい。
本作を批判する感想の中で「主人公バカすぎ、最後まで成長がない」というものを多く目にしたが、的外れだ。物語全体を見れば、バカ主人公の存在はむしろリアリズムとして必然とすら思える。「事態に適切に対応しながら、かしこく成長する」ばかりが主人公ではない。愚かで幸せな主人公の周囲が、主人公の無自覚さゆえに不穏な状況に陥っていく大筋は、まさにドタバタ・コメディの基本パターンだ。どこかしら善人デフォルトな大林映画に対するアンチテーゼとしても立派に機能しているのだw
というようなわけであまりに単細胞な主人公に感情移入はわすれて、ドタバタ・コメディとして素直に楽しんだ。
※大林ポエム路線。詳細は忘れたがかつてオリバー・ストーンとの対談番組かなにかで、「美しい原子雲の下に地獄があることを想像うんぬん」発言があった。大林のねちょねちょした語り口と比べると、まだしも(むしろ嫌いなほうである)オリバー・ストーンの方がマトモな印象だったw