Tom Rob Smith
トム・ロブ・スミス
田口俊樹 訳
新潮文庫
1989/9/1 発行
上 394ページ ¥705+税
下 383ページ ¥667+税
★★★
おもしろかった。
誰もが褒めているので、読もうかどうしようか迷っていたが、某知人まで絶賛するので読み始めた。
先日、嫁から薦められて読んだ「このミステリーがすごい!」の国内編1位「ゴールデンスランバー」があまりにも酷いケータイ小説だったので、海外編1位のこちらも不安だった。さすがに杞憂だった。どちらも歴史的な大事件をネタにしたエンターテインメント作品だが、完成度の高さは比べようもない。「チャイルド44」はおもしろかった。最後までまったくダレない。主人公であるレオが抱える深い業は、半端ない壮絶さだ。キャラの葛藤といい、登場人物と大状況の関わり方といい、ゴールデンなんとかの素人臭い甘ったれたプロットや描写とは、段違いのおもしろさだ。
とはいえ「チャイルド44」にも、不満がないわけではない。エルロイのような独自のオレ様歴史主観が、欠落しているのだ。そのせいか、話はおもしろいが深みに欠ける。ヘタすると、いまさらながらの反共プロパガンダ娯楽小説がやりたかったのか?みたいな印象さえある。チカチーロは1980年代の話なのに、わざわざスターリン時代に話を設定することで、犯人の動機づけやストーリーのサスペンスなどすべてが「地獄のような警察国家=今は崩壊してしまったソ連」で起こった犯罪という通俗的なイメージに収斂されかねないのだ。じっさい、そこらに散見する「感想文」も、そんなのが目立つ。でも、それは現実のチカチーロ事件を単純化するひとつの「通説」の強化でしかない。現実の事件をネタにわざわざ小説の形で再構成しているのに、その結果が「通説」に擦り寄ってるだけというのはまったく感心できない。すでに大衆に広まっている「通説」「俗説」を強化するだけでは、商業主義と非難されてしかるべき姿勢ではないか?現実は、いつも多層的で底なしの深さだ。
と、ケチをつけてみたはものの、正直おもしろかったw
リドリー・スコットが映画化を企画中だそうだが、確かに読んでいて「絵」が浮かぶ。ちょっと楽しみ。
映画版LAコンフィデンシャルなみの脚色が必須だろうが、脚本と役者がうまくいけば、おそろしい傑作になるかも!
>>