監督:ニキータ・ミハルコフ
出演:ニキータ・ミハルコフ
シャンテシネ
★★★★★
驚愕のオリジナル超え!
おどろき。
短い時間で、「知性」が「偏見」を乗り越えて「正しい裁判」が成立するオリジナルが、まるでコドモだましのように見える重層的な構成に大興奮。
映画冒頭で描かれるのは、容疑者の青年がおくる故郷グルジアの光景。美人の母親。平和な平屋の自宅。戦場。焼け落ちた家…。
学校の体育館(ベスラン学校占拠事件を連想しないわけにはいかない)で、チェチェン人の青年の裁判が始まる。
映画はオリジナルを踏襲しているかのように思わせながら、より演劇的な寓話っぽいサブ・ストーリーを絡ませ始める。
ところが暴走することはない。適当なタイミングでオリジナルの脚本の流れに戻り、また離れる。これをなんども繰り返しつつ、ついに無罪へ手をあげる人間が11人へ逆転したとき、なんとオリジナルにはなかった大逆転が起こってしまう!
これには驚いた。
そうきたか!
ドラマは、さらに恐ろしい選択を陪審員全員につきつける。
それでも…
ミハルコフ版とオリジナル版の判決は表面上同じにみえるが、意味がまったく違ってしまっている。ミハルコフ版は、オリジナル版が終わったあとのよりリアリスティックで厳しい世界を描いている。
それは、米国とロシアの違いではない。
もっと普遍的な世界のはなしだ。
さらに!
さらに映画にはおそろしい罠が仕組まれている!
おそろしい!
そのノワールなオチは、見かたによっては寓話かファンタジーに見えてしまう「いい話」をすべて合理的でリアリスティックな恐怖譚に変換してしまうとんでもない仕掛けなのだ!
だが、それこそミハルコフの製作動機に違いない。
おそろしい、なんという…