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731 ―石井四郎と細菌戦の闇を暴く―

[ book ]

731石井四郎と細菌戦の闇を暴く
青木冨貴子
2008/02/01発行
¥705+税

2005/8 新潮社刊

★★★★

普通の人間がバケモノと化す物語は、ノン・フィクション、フィクション問わずめずらしくない。
この本は、バケモノだった男が気がつけば普通の人間へなっていたという逆のパターンだ。

戦後50年を経て発見された石井直筆2冊のノートをベースに、731の悪行がみごとに隠蔽されてしまった過程を活写する。

プロロ-グ 深い闇
第一部 加茂から満州へ
 第一章 加茂
 第二章 東郷部隊
 第三章 平房の少年隊
 第四章 ハルビンへの旅
第二部 終戦そしてGHQ
 第五章 「1945終戦当時メモ」
 第六章 占領軍の進駐とサンダース中将
 第七章 トンプソン中佐の石井尋問
 第八章 「ハットリ・ハウス」の検察官たち
第三部 石井四郎ノートの解読
 第九章 「終戦メモ1946」
 第十章 鎌倉会議
 第十一章 若松町
エピローグ 軍医たちのその後
あとがき
著者ノート
主要参考文献
解説 佐藤優

マッカーサーの策士っぷりはすごい。が、ワシントンのダークサイドはさらに深い。
左手で石井を追う指示を出しながら、右手には細菌戦の情報を確保するため東京裁判から石井を保護することさえ厭わない。

米軍側でも、現場レベルで捨石とされる人間がずいぶんといたわけだ。ここらへんのディティールがすごい。すでに成されてしまった悪行もさることながら、それをまた利用せんとする「正気」は、むしろ「狂気」よりもおそろしいのではないか。

~~~以下 無駄な罵詈雑言~~~

どういうわけか良書には、酷い解説がお約束になっているのだろうか?

やたら「評者」を自称する元外交官は、「時代状況が異なっていれば、評者が石井になったかもしれない」などとカマトトぶっているが、間違いなくこの男の本音は「有末機関の有末になったかもしれない」のほうだろう。佐藤の解説は、本のあらすじを石井の動向中心に追っただけの感想文にすぎない。本来「評者」なら分析してしかるべき青木氏の綿密な取材方法や、秘密の暴露がどうして行われたかについての考察が欠落している。この評者には「外交」と「官僚批判」しか興味がないのだ。

それが証拠に、731の悪行の一翼を担いつつも、ロシアで証言後、収容所で首吊り自殺した柄澤十三夫についてはただの一言もふれることはない。いや、ふれることなどできはしないのだ。

柄澤の証言は、「外交」や「他者の批評」などとは無縁のロジックからきている。人として耐えられなかったがゆえに彼は証言したのだ。それが米ソの戦略にどれだけの影響があるかどうかなどまったく関係なく、彼は証言せざるをえなかった。ただ、その証言は柄澤が意図したであろう「人体実験の告発」という文脈だけでなく、「細菌戦」の情報戦争という政治の流れに、より大きな影響を与えてしまった。

それでも、こうして青木のような良心的なジャーナリズムが生き続けるのは、柄澤の無念に想いをはせているがためだ。行間を読むとはそういうことではないか。

「時代状況が異なっていれば、評者が石井になったかもしれない」だと?そんな貧相な感性で仕事こなした気になっているようでは、生涯「作家」になんぞなれやしないだろう。ふざけた野郎だ。

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2008年10月07日 23:52に投稿されたエントリーのページです。

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