監督:Lee Tamahori
出演:Nicolas Cage
95分 2007
★★★★
こりゃおもろい!!!
まさにディック風悪夢だ!
リー・女装で逮捕・タマホリ監督 と、
ニコラス・何をしてもまじめにうけとってもらえない・ケイジ が
全世界(主にハリウッド)に呪詛を叩きつけた
驚異の不活性能力(超能力を中和する能力w)爆裂の傑作超能力映画
それが NEXT ネクスト だ。
<あらすじ>
クリス・ジョンソン(ニコラス・ケイジ)は、ラスベガスで働くマジシャン。ハデな持ちネタもない、どこにでもいる凡庸なマジシャンだ。ところが、彼のマジックのタネはほんもの超能力だった。クリスは、未来が見える超能力者だったのだ。ただし、彼が見ることができる未来は、自分に関わる未来だけ。さらに、未来といってもわずか2分先が限度らしいのだ。とはいえ、クリスは幻視した2分先の未来を変更できるので、自分の直近に起こる危機に対しては無敵の存在になれる。目前で起こる(った)強盗事件を未然に解決し、アクセルをもう少し強く踏みなおすことで事故で死んでしまうもうひとつの未来から逃れることができるのだ。
そんな完璧と思われる予知能力だが、謎がひとつあった。クリスは、2分先ではない(!)ある未来の瞬間を繰り返し幻視していた。見知らぬ女(ジェシカ・ビール)と出会う幻視だ。幻視した映像を手がかりにして、クリスは女が現われるであろう店に張り込むことを日課にしていた。
そんなある日、クリスの超能力を察知したFBIエージェント(ジュリアン・ムーア)に、核爆弾を使ったテロリストの捜索を強要されることになる。自分の能力の限界と責任の重さからクリスは逃亡せざるをえない!そんな最中、ついにクリスは幻視した見知らぬ女と出会ってしまう。逃亡中にもかかわらず、運命の女と信じるクリスはいつもの店に。そこには!・・・
<以下 完全ネタバレ ! 一部 文字色反転>
この映画を見終わった瞬間、 時間飛行士へのささやかな贈物 を連想した。
表向き「衝撃の危機管理超大作」w であるこの映画は、ハデなCGを駆使してクリスの逃亡劇を描写する。主人公にふりかかる危機、また危機は、予知能力を駆使したアクロバティックなアクションで痛快にやりすごされる。
ところが、物語も中盤をすぎたあたりから、なにやら不穏な空気が流れだす。
幻視した女を「運命の恋人」と思いこんだクリスは、見知らぬ女に猛アタック。失笑もののとぼけたコメディが続きながらやっと結ばれたと思ったところで、お約束どおり女はテロリストに誘拐されてしまう。
で、クリスはまたもや2分の壁を越えて、最愛の「女が爆死」するところを幻視してしまう。当然クリスは、その最悪な未来を防ぐために FBI に全面協力してもらいつつ大奮闘するわけだ。ここから先はタマホリのテンポ良い演出のせいもあってストーリーそのものに「悲壮感」が欠けるため気づきにくいかもしれないが、クリスの超能力活用方法に重要な断絶が生じていることに注意せねばならない。
前半の超能力は、悪い未来を避ける、都合の悪い未来を変更する方向で使われている。ごく普通の使い方だ。ところが、いよいよピンチのレベルもあがり、もはや残り時間が少なくなってきたと思われる後半においては、クリスの行動はわざわざ「自分の死」を幻視する(自ら最悪のパターンを積極的に繰り返す)ことでピンチを切り抜ける!という倒錯した解決法になっていることに注目せねばならない!これは、未来を予知できる能力を「危険を避ける」ことで活用してきた前半とはまったく対称的な態度である。
さらに、数々の危機を回避しまくった最後、映画は愉快な娯楽アクション映画にあるまじき、かつてないクライマックスを迎える。恋人を羽交い絞めにするテロリストに向かい、クリスは正面からずんずん立ち向かう!
たしかに映像的にはまるで「分身の術」で調子よく身をかわすかのように見えるシーンだが、あれは「死んだ!」やりなおし「死んだ!」やりなおし「死んだ!」やりなおし「死んだ!」やりな・・・と短い時間に生と死をなんども繰り返すクリスを描いた壮絶きわまりない名シーンなのだ。分身の術なんかではまったくない!
かくして、無事に恋人をわが腕に取り戻したクリスはヒーローとして立派な・・・と思わせた瞬間、なんとテロリストの仕掛けた核爆弾が炸裂!なにもかもが吹き飛んでしまう!! この壮絶なアンチ・クライマックスにクリスは思わず「まちがえた・・・」と、ポロリと口にしてしまう!純然たるコメディでもなく、ましてや悲劇でもないアクション映画で、こんなセリフを発した主人公がいただろうか?これはアクション映画のセリフではない。むしろノワールの領域だ。
映画はこの後 彼女がテロリストに誘拐される前まで一気に遡り、クリスの再挑戦が当然のようにほのめかされつつ静かに幕を閉じる。ここでなにげなく描写されるクリスの表情もすばらしい。さすがアカデミー賞俳優の貫禄だw。
さて、ニコラス・ケイジ扮するクリスは、もういちど挑戦したとしてあの大惨事を食い止めることができるだろうか?
とてもできるとは思えない。
いや、まず間違いなくまたも「間違って」しまうことは確実だろう。クリスの能力は、自分に関係した未来を2分先なら苦労せずとも幻視できるし、見てしまった未来を変更できる。実際、なんとかして身近な存在となった女の死という最悪の事態を2度も回避することができたわけだが、それは物語冒頭で説明された設定どおり身近な未来を変えただけで、世界を変えたわけではなかったのだ。そもそも自分とは何の関係もなかった大状況がコトの原因だった場合、そんな未来を変えられるほどの能力はクリスにはないのだ。それを自覚していたがゆえに、己の超能力をあくまでも凡人として自分のためにだけ使っていたわけだ。
2分間という基本ルールを超越して幻視した出来事は、おそらくクリスが核爆発による爆死した最後の瞬間に直接関係するもっとも重要な分岐点だったに違いない。
だからこそ2分間という制限を超越して超能力は発揮されたのだ。つまりクリスが運命の女だと思いこんでいるのは 死の女神だったのだ!
テロリストによる核爆発で死んだクリス。その瞬間超能力が暴走、核爆発にまきこまれる原因となった女との出会いの瞬間まで「2分間の限界を超えて」予知は逆流してしまったのだ!
おそろしいのは、「2分間の限界を超えて」が映画の中ですでに2度生じていることだ。ということは、クリスはすでに本当の死から何度目かの死を体験しているということなのか・・・。クリスは未来予知という能力のせいで、とんでもない地獄のループ世界をさまよっているのかもしれない。
つまり、この物語は伝統的なでにノワールなのだ。
誰もがうらやむ超能力を持つ男が一人の女に固執することで、武器だったはずの超能力によって自滅してしまう物語なのだ。
さらにこのアクション映画が感動的なのは、それでもクリスはもういちど彼女を救うためにやりなおすことが明快に示唆されていることだ。これはいい。すばらしい。上質のメロドラマだ。クリスはアンドロイドではない、人間だ。クリスは、ディックがなんどもなんども描いた人間的なキャラクターなのだ。ヒーローなのだ。
ディック好きなら、「ライズ民間警察機構―テレポートされざる者・完全版」のラスト・シーンを連想する人もいるかもしれない。まったくもって希望があるとは言い難い状況なのだが、もういちど(!)やらざるをえない、いや何度でもやることを自分でしみじみと反芻するあのシーンだ。
これはすごい!
「スキャナー・ダークリー」は生真面目なリンクレイターが演出しただけに、「ディック小説を映像化」した「はじめての成功作」となったが、皮肉なことに原作に忠実であるがために「原作のもつ茶目っ気と予想外の展開」という楽しみまでは得られなかった。ディックが得意としたB級SFの意外なサスペンスとしては、むしろ「トータル・リコール」のほうが納得だ。
映画「ネクスト NEXT」は、過去のディック映画化作品でことごとく失われた「デック・テイスト」を、原作を完全に無視するというアクロバティックな方法でついに成功してしまった傑作なのだ。
どうみても娯楽映画のフォーマットなのに、映画のクライマックスで、かくも悲惨な結末が描かれたことがあったろうか?娯楽映画でなければ、そんなものはいくらでもあるし、すこしも珍しくはない。主人公のドツボ具合は、ラース・フォン・トリアーの「ヨーロッパ」の壮絶な最後を連想させるものだが、トリアーの映画ではそれがむしろデフォルトなので、「NEXT ネクスト」のカタストロフとは意味が違う。
いやあ、やはりすごいw
原作と称する「ゴールデンマン」のかけらも残っていないディック映画は、おそろしいことに「暗闇のスキャナー」よりも優れてディック風味の悪夢を描いた、とんでもない大傑作だった!!!
ほんとうに感動した。
ニコラスさん、あなたはディックをわかってます!
あの白痴子供スピルバーグの百倍、ディックを理解してますよ!
おしむらくは、主演女優だ。
黒髪のロングヘアーで、貧乳・小柄・病弱。さわったら壊れて死んでしまいそうなのに、口だけはいっちょまえで、こ憎たらしいことを平気で口にする女優だったら、この映画はおそらく生涯ベスト5に入ったことは疑うすべもない!!!ラストで泣き崩れて、映画館から出られなかったに違いない!!!あああああ!!なんと惜しい!あまりにも悔しいミスキャスト!!!とはいえ、そんな弱点も、映画全体の構成からするとかわいいアバタにすぎない。
というわけで、私は NEXT を断固支持する。
スピはニコのケツを舐めて平伏すがいい。
※2008/6/15 校正&若干追記
>>Philip Kindred Dick / perfect collection (in japan)
おまけ
映画「ネクスト NEXT 」 時空を超えたテーマ曲 ~ また逢う日まで ~